デカ尻女
-フィクション-
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ここに書かれてある事は全てフィクションです。
実際にあったことではありませんので、あしからず。
淡々と走っていると退屈なので、
暇つぶしに色々と考えた話です・・・。

 天気の良い中央高速。早朝に自宅を出発したおかげで渋滞が始まる前に談合坂を越えることができた。 これからかなりの距離を走る予定なので、のんびりとエコノミーな走りをしていた。正直言って、燃費を維持すると言うのは大変なことで、最高時速120km/h未満、平均時速115km/hを堅持するというのは、ある意味気骨が折れる。こちらよりまわりの車のペースが速いことが多く、抜くことより抜かれることの方が圧倒的に多い。抜くのは楽なのだが、抜かれるのは神経を使う。風圧で煽られたり車間距離を充分にとらずに前に入られたりと、バイクには不利なことが多い。一番良いのは、自分と似たペースの車を見つけて、その後ろを適当な距離を保持してついてゆくこと、過去のツーリングの経験から判ったことだ。そういうペースカーがなかなか見つからないまま、そろそろ八ヶ岳を過ぎようとしていた。
v17066a.jpg  その車が接近してきたのを、すぐにバックミラーで確認できた。明らかに他の車とは違うペースで追い越し車線を接近してきているからだ。私の横を通り抜ける時、テールを見ると「carrera」の文字があった。がむしゃらにとばしているというのではなく、するすると移動している感じに近い。前方の追い越し車線にいたソアラの後ろに追いつく。煽るわけでもなく、ウィンカーを点けるわけでもなく、静かにおとなしく先行車のペースに合わせている。ソアラの前には国産のセダンがいて、今ひとつペースが上がっていない。走行車線にはまだ先のほうまで何台か車がつながっている。走行車線側の車のペース、追い越し車線側のセダンのペースをそれぞれ見比べる。ソアラとポルシェがほんの100m先にいて、少しづつ離れてゆく・・。私はバックミラーで後方を確認して、追い越し車線を接近してくる車がいないことを確認し、右ウィンカーを点けた。その時、ゴールデンウィークでのことが頭に浮かんだ・・・。

 ゴールデンウィークのツーリング、岐阜県の山奥でキャンプをした帰り道。松本で長野道へ上がって間もなくのことだった。追い越し車線を先行する車のペースに合わせて走っていると、接近してくる車がいた。それがポルシェだということはバックミラーで確認できた。はじめて見るフロントマスク。新型? 比較的交通量の多い状況で、走行車線も追い越し車線もなかなかクリアな状態にならない。しばらく走って、ようやくだんご状態を抜けて先行車が調子良く加速を始める。私もつられて速度をあわせる。・・・っと、左の走行車線をさっきまで後ろにいたポルシェが勢い良く走りすぎてゆく。バックミラーで後方の安全を確認して左ウィンカーを点け、車線を変更して後を追いかける。ギアは6速のままだが180km/hくらいまでは加速していたと思う。すぐに次の車の集団に追い付き、ポルシェは追い越し車線に入り、その集団の最後尾に付いた。私も追い越し車線へ入ってポルシェの後ろに付いて待機した。
c18649a.jpg  例え相手がどんな車であれ、自分のマシンがZZRという絶対的有利な立場にいる以上、何のハンデも余裕もなしで追い抜くことは、ただの追い越しでしかない。少なくとも相手の車がベストな状態で加速している時に、それ以上の加速や速度でもって凌駕するのが、より優位に立つ者のせめてもの礼儀だと、おこがましくも私は考えていた。テールに「carrera」の文字はない。ただの911らしい。そう、カレラではないただの911。ポルシェに無知な私は、それがどういう意味なのか判らなかった。
 かなり走ってからようやく前がクリアになった。わずかな直線と緩やかな左カーブをポルシェはダッシュしてゆく。相手に礼儀を・・・、一呼吸置いてからおもむろにシフトダウンして加速を始める。ギアは5速。140km/hあたりからじわじわと加速して行く・・・ポルシェに追いつかない。ギアはそのまま、さらに加速してメーターは200km/hを越え始めた。ポルシェに近づくどころか逆に少し離される。この時になってようやく自分のミスに気がついた。メーターは既に240km/hを指していて、シフトダウンして4速で加速する余地は残されていない。もうどうにもならない。横に並ぶ為に走行車線へ変更するべきか、車線変更のわずかなロスも今はもったいない。ひたすらポルシェの後にくいついてゆく・・・。メーターが280km/hになったところでポルシェが急に近づいてきた。ポルシェの向こうに車の集団が見える。減速を始めたらしい。私もアクセルを戻して上体をカウルから出した。
 中央道に合流してからは、更に交通量が増えた。とても誰かと加速競争をするようなクリアな状態は生まれそうもない。それでも、わずかな可能性を期待してポルシェの後ろに付いて行ったが、とうとう八王子まで来てしまった。ここから私の降りるICまではほんの少しの距離だし、道路も混んでいる。たった一度のチャンスを有効に使うことができなかった。相手を侮ってしまった自分のミス。せめて4速までギアを落としていれば何とかなったのではないか。何を考えても後の祭り。ZZRの速さを立証するチャンスは、もう二度と来ない・・・。

 あれから数ヶ月、今度も似たようなシチュエーション。車線を変更して追い越し車線を走るポルシェの後ろに付いた。ペースの上がらない国産のセダンが左ウィンカーを点けるのが見えた。今度はギアを二つ落とした。4速。今の速度は130km/h。ソアラが加速を始める。それに合わせてポルシェも車間を一定に保って加速を開始した。私はポルシェの速度に合わせて加速する。速度はあっというまに180km/hになった。少しの間、この速度でソアラは走りつづけていたが、あきらめたのか左ウィンカーを点けて走行車線へ入っていった。行くのか、行かないのか、ポルシェの様子を伺う。スルスルと加速を始める。その速度にあわせるように私も加速を始める。バックミラーを見てこちらに気付いたのか、それとも、既に気付いていて、ようやくその気になったのか、クンとリアが沈んでさらに加速が加わった。緩い上り坂、右カーブ。道路の継ぎ目に僅かに残っている水溜りにタイヤがしぶきを上げる。空まで続きそうなカーブをポルシェは駆け上がってゆく。少し距離が開く、速度は240km/hあたり。タコメーターは赤いところに入っている。5速にシフトする。少しだけ近づくことができた。左の走行車線に踊り出る。上体を伏せてひたすら加速。瞬く間にメーターは270km/hに到達する。距離は縮まったが並ぶまで行かない。カーブの先から車の集団が現れてきた。ポルシェが減速を始める。こちらもアクセルを戻して上体を起こす。一瞬横目で見たタコメーター、針はレッドゾーンに深く入っていた。速度が充分に落ちたところで、追い越し車線のポルシェの後ろに付く。だんご状態の車の集団の最後尾について、また前方がクリアになるのを待つ。再度集団を抜け出た時には、ポルシェは左ウィンカーを点けてインターを降りていってしまった・・・。
 また今度も抜く事ができなかった。油断をしていたつもりはない。それでもダメだった。ゴールデンウィークに続いて2度目の経験。3度目のチャンスは果たしてめぐってくるのだろうか・・・。

04A17026.JPG  今でこそ、インターネットで調べて、カレラでないポルシェが381馬力か462馬力のハイパワーエンジンを積んだモンスターマシンだと、この期に及んで、ようやく判ったのだが、それでも、それがどれほどの速さなのか実感が湧かない。私の愛車のプリメーラワゴンと同じくらいの車重に、3倍から4倍の出力のハイパワーエンジン。友人のインプレッサは280馬力。これは確かに速い。カレラは4WDでも320馬力以上ある。多分、高速ならインプレッサよりも、もっと速い乗り物だろう。私のZZRで追い抜ける可能性はあるのだろうか? 走行距離8万キロに手が届きそうな老鉄馬。家に帰ってヘルメットを脱いでさえ、まだ懲りていない自分がいる。今度は一体いつなのだろうかと・・・。

※ここで使用している画像は国内某販売代理店HPより無断で借用しております。すみません。大目に見てやって下さい。